情報のプラットフォーム化によるサプライチェーンの効率化

 ロジスティクスの効率化がこれまでどの様に進んできたかという話をしてきましたが、最後はこれからどういう方向でロジスティクスが変革していくのか、改革されていくのかということを紹介したいと思います。

 まず重要なポイントは、情報のシェアリングです。サプライチェーンは長く、生産に必要なものを調達するところから始まり、生産して、色々なところを通ってそれが店舗に、そして消費者に渡るというように非常に長い情報をシェアすることが、サプライチェーンの効率化に非常に重要だろうと思います。(Fig. 1)

情報のシェアリングによるサプライチェーン効率化

 情報シェアリングの中で一番シンプルな考え方というのが、物流リソースのシェアリングという形です。物流リソースというのは、トラックや倉庫など物流に必要な物です。それをシェアすることで効率化ができる、そのベースは情報を共有する事ですという考え方です。

 例えば、プラットフォームという考え方があります。輸送のマッチングプラットフォームには、荷主(こういう物を送りたいよという人)、こういう物を送れる、あるいは保管するキャパシティがありますよという物流業者のそれぞれの情報が一つのマッチングプラットフォームに入っています。図の上側が輸送サービス需要情報、下側が輸送サービス供給情報ということになります。(Fig. 2)

情報のプラットフォーム化による物流リソースのシェアリング

 このような情報を共有化することによって、今一番効率的な運送になるような物流業者と荷物を結びつけるわけです。例えば、一番荷主に近い業者が取りに行ったり、一番届け先のことをよく知っている業者に取りに来てもらったり、運びたい荷物、扱いに一番慣れた業者に運んでもらうのが一番効率的です。このようにそれぞれの物流業者と、荷主が送ろうとしている荷物の情報が共有化されている状況を作っていこうというのが、輸送のマッチングプラットフォームの考え方です。

 これは実に既にできているところが結構あって、特にベンチャー企業はいくつもできています。

 その例を少しお話します。倉庫という物流のリソースを共有するということでSOUCOという会社があります。倉庫を提供したい、持っている人たち、それから倉庫に荷物を入れたい人たち、その人たちを繋げる業者です。(Fig. 3)

物流情報・リソースのシェアリングによる効率化実例

 この倉庫の場合には、利用する人と倉庫を持っている人が直接やり取りするのではなく、SOUCOという業者を通じて、こういう物が置ける、倉庫がこれだけ空いている、そしてこういう荷物を保管したいという情報をマッチングして、お金はSOUCOに払って、そのSOUCOから倉庫提供者に払うというようなエージェント方式になります。

 一方、ハコベルというのは、直接方式で、物を運べる物流業者と、荷物を運んで欲しい荷主が直接ハコベルの持っているプラットフォームのデータベースにアクセスして、荷主にとって一番都合のいい物流業者を見つけて、その物流業者にお願いをする。その物流業者はその荷主のところにきて、荷物をピックアップして運んでくれるというのがハコベルです。

 このように物流の情報を、プラットフォーム化(共有化)して、物流リソースを共有して効率化するという流れがあるのですが、もう一つのリソースのシェアリングとして、コロナ禍によって、色々な事が起こっています。例えば、タクシーで食品を運んでもいいですよとか、新幹線で函館から青森、新幹線の座席に荷物を置いては運ぼうとか、過疎地などで、宅配便の代わりに、過疎地を回っているバスに貨物を積んでしまうといった、貨客混載というコンセプトは少しずつ広まりつつあります。バスや鉄道で荷物を運ぶ「貨客混載」です。

 このシェアリングという概念をさらに推し進めたものが、フィジカルインターネットという概念です。(Fig. 4)

フィジカルインターネットの登場

 デジタルインターネットのモデルは、あるPCからあるPCにデータを送ろうとしたときには、パケットという単位で送りますが、その時にはどこのルーターを通っても構いません。ひょっとするとアメリカを経由して東京から大阪までデータが送られているかもしれません。

 そのアナロジーとしてフィジカルインターネットというものを提唱したのがBenoit Montreuilです。フィジカルインターネットは、あるモジュール化したコンテナで、共有化された物流リソースとネットワークを使って、どんなルートで誰が運んでも構わないということです。

 例えば鉄道で運んでもいいし、トラックでもいいし、それが大型でもいいし、小型でもいい、場合によっては自転車でもいい、一番都合のいいところを通っていきましょうというのがフィジカルインターネットです。

ただその時に重要なのは、それぞれのコンテナにはRFID(ICタグ)これが付いていて、その荷物がどこで、どういう状況にあって、誰がどこに運んでいるかという情報がリアルタイムで共有化できるということです。

 リソースの共有による効率化という点では、フィジカルインターネットのようなネットワークで効率的に運送しようという動きがあります。しかし、これは、物を運ぶという範囲の中での効率化ということになってしまいます。重要なのは、サプライチェーン全部を効率化、最適化するということが重要になります。

 そこで、サプライチェーンの全部の情報を共有することによる最適化、競争力の強化を考えてみます。

 それはサプライチェーンを統合するプラットフォームというコンセプトです。物流のプラットフォームは、荷主の情報と物流業者の情報だったのですが、これは、サプライヤーから消費者までのあらゆる情報を一つのデータベースにしましょうということです。運べる物流業者や金融機関の決済といった商流の情報もあわせて、全てのサプライチェーンの情報をひとつのプラットフォームの中に統合して、もっとも効率的なサプライチェーンを構築していきましょうというものです。(Fig. 5)

サプライチェーン情報統合による最適化・競争力強化

 その時に非常に重要なのが、デマンド・マネジメントという考え方です。

 今は、メーカーは見込みで生産をして、安全在庫を作っています。そして流通は各段階で安全在庫を持っています。そしてリードタイムを短縮するために、全国で在庫を持っています。食品の場合は、3分の1ルールといって賞味期間の1/3を過ぎた商品はメーカーから卸に納品出来ない商習慣があります。これは大量のロスを生みます。そこで重要なのはデマンドです。つまり、消費者にどういう需要があるのかというのをベースとして、そのためにどのように生産するのかというように、デマンドから発想したマネジメントをして、サプライチェーンを構築していくということが非常に重要です。

 デマンドから発想したサプライチェーンということで、デマンドチェーンという呼びかたができるかもしれません。(Fig.6)

デマンド・チェーンモデル

 サプライチェーンというのは、左側に工場があって、右側に消費者があるのですが、デマンド・チェーンというのは、考え方が逆で、左側に消費者があって、右側に工場があります。だから、消費者が欲しいものはどういうものなのか、あるいは、小売りはこういう物が売れると思って欲しいと思っている、そういう情報をベースにして必要な在庫を持つ、そのために必要な物を生産をするというように、デマンド側から、サプライチェーンでいうと川下から川上へ戻るにように考えていくモデルです。こういった考え方をしなければ、これからのサプライチェーンの効率化はできません。サプライチェーンの各プレーヤーが勝手に自分のところだけの最適化を考えていてもサプライチェーン全体の最適化にはつながらないのです。  ですから、サプライチェーンをデマンド・チェーンに変えて、模式的に書いてみると、トラックは右側のサプライヤーから左へ動いていて、物は右から左に動いているのですが、情報は消費者を起点に左から右へサプライヤーの方に動いています。(Fig. 7)

これからのデマンド(サプライ)チェーンマネジメント

 この様に消費者が欲しいものがわかったうえで作り、全体に流れる情報をプラットフォーム化して、一元化するということに加えて、フィジカルインターネットの様にネットワークをオープン化する(共有化する)ことによって、本当の意味でのロジスティクスの最適化ができると思います。

 そしてこのように、ロジスティクスの最適化をするとことによって、消費されるまで全てのサプライチェーンが最適化されます。更に、商品が作られてから、顧客側のニーズが供給側とリアルタイムで共有されることによって、今とは違った商品やサービスの形態が生まれてくるに違いないなと思います。

 この非常に簡単な例が、Uber Eatsだと思います。Uber Eatsで、運んでいる人たちはフリーランスのギグワーカーで、彼等はレストランの近くでオーダーを待っています。そしてデマンド側の消費者からこの様なものが欲しいというオーダーがレストランに入ると、そのレストランがこういう物を作るという情報を流すと、それを見つけた一番近くのギグワーカーのUberの配達員が、取りに行き、発注した消費者のところに届けるというものです。今までも出前というシステムはあったのですが、フレキシブルで共有化されたオープンなネットワークと、Uber Eatsはギグワーカーによる消費者視点からのデマンドからスタートしているという点で、新しいビジネスモデルだと言えます。

 Uber Eatsは、デマンドから発想して、ネットワークをオープン化して共有化してする、こういうことが出来るという一つの例なのですが、これからもこの様なイノベーションというのは、色々なところで生まれてのではないかなと思います。 西成研で提唱しているロジスティクスモデルとして、デマンド・ウェブ・モデルというのがあります。(Fig. 8)

デマンド・ウェブ・モデル

 これは私が説明した様に、顧客の需要、消費者の需要をきちんと把握して、それをみんなと共有化する、それと同時にそれに基づいた生産や調達をする、そういった情報に基づいて、オープンなネットワーク、共有化されたネットワークを使ってそれを運ぶというものです。このモデルは、最も効率的な物の輸送と、物の生産から輸送と消費までが行える様になると思っています。

 私たちはこういったデマンド・ウェブ・モデルのようなものをいつも頭におきながら、言い換えると、デマンドというものをいつも考えながら、その手前にある配送の効率化とか或いは在庫の効率化とか、或いは生産の効率化、調達の効率化というのを考えていく。そういった考え方で現代の物流とサプライチェーンの課題に取り組んでいきたいと思っています。

 まとめになります。物流というのは長い間、勘と経験が重視される業界でしたが、これからは情報をつなげていくことで、効率的になっていくと思います。例えばインターネットや、AIとかIoTなどをフルに使って、ロジスティクスが効率化していくということが考えられます。そして、ベンチャー企業やスタートアップが、プラットフォームを作ったり、非常に優秀なコンサル外資系出身の人が、先程私が言った様な、物流のプラットフォーム事業を立ち上げたりということが起こっています。

 日本の物流、あるいはロジスティクス、サプライチェーンは、あまりにも複雑でかつ色々な”しがらみ“がいっぱいある領域です。ですから、今までは中々手を付けられていなかった領域だと思います。ですから、これからこういった複雑な問題をどう解きほぐしていくか、そこにサイエンティフィックな視点や手法が非常に期待されています。そういう意味で皆さんの様な理系の人たちが、このサプライチェーンやロジスティクスを、能力を発揮する場にしていってもらえたらと思っています。